スポーツとFAIの関連性
今回のkey point
Cam型の変形は思春期の成長期に激しい運動をしていた人に多くなります |
週3回以上の練習をするとCAM変形に発生率が上がります |
スポーツとFAIの意外な関係
近年、若い世代で「FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)」という股関節のトラブルが注目されています。これは、もともとプロアスリートやスポーツ愛好家に多く見られるものでしたが、今では中高生の競技者にも増えてきています。では、このFAIはどのようにして起こり、どんなスポーツが関係しているのでしょうか?本記事では、実際の医学研究をもとにわかりやすくご紹介します。
FAIって何?
FAIとは、股関節にある大腿骨(太ももの骨)と寛骨臼(骨盤のソケット部分)がうまく噛み合わず、ぶつかることで痛みや可動域の制限が出てくる状態を指します。通常、股関節は球状の大腿骨頭がソケットにスムーズに動く構造ですが、この構造が一部変形することでトラブルが起きます。
FAIには大きく分けて2種類あります。
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カム型(Cam型):大腿骨の首の部分が膨らみ、関節のスムーズな動きを妨げます。
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ピンサー型(Pincer型):骨盤側(寛骨臼)が過剰に覆いすぎて、動きの中で骨が衝突します。
この2つが混在した場合は「ミックス型」のFAIと呼ばれています。
なぜ若いアスリートにFAIが多いのか?
成長期のスポーツがカギ
FAI、とくにCam型の変形は思春期の成長期に激しい運動をしていた人に多いことが、多くの研究でわかってきました。
骨がまだ柔らかく、成長板(骨が伸びる部分)が開いている時期にジャンプや走る、急停止・急発進といった繰り返しの負荷が加わることで、大腿骨の形が徐々に変わっていくと考えられています。
どんなスポーツが多いの?
特に以下の競技ではFAIのリスクが高いとされています。
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バスケットボール:ジャンプと急激な方向転換が多い
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アイスホッケー:腰を低く構えて滑る姿勢、ストップ動作が多い
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サッカー:キックや切り返し動作が多く、股関節に高負荷がかかる
実際に、週3回以上の練習を継続する中高生の競技者では、Cam変形がみられる確率が一般の学生より数倍高いと報告されています。
たとえば、ドイツのエリートバスケットボール選手の研究では、成長板が閉じた後には89%がCam変形を示していたのに対し、運動をしていない同世代ではたった9%だったという結果があります。
成長期に何が起きているの?
Cam型FAIの発生メカニズムには、「成長板への繰り返しの微小損傷」が深く関係しています。骨の成長部分に繰り返し負荷がかかると形が変わってしまうという現象となります。
MRI研究によると、Cam変形が生じる場所と成長板の位置が非常に近く、成長が進むにつれてその変形が定着していくとされています。
この時期に行う過度なスポーツが、将来的な股関節の痛みや変形につながる可能性が高くなります。
FAIを予防するためにできること
FAIそのものを完全に予防する方法は確立されていませんが、成長期のトレーニング量や方法に気をつけることでリスクを減らすことは可能です。
予防に役立つポイント
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成長期(おおよそ12〜16歳)には過度なトレーニングを避ける
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1週間あたり3回以上の高強度トレーニングは慎重に
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柔軟性の維持、特に股関節前面の筋肉のストレッチ
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股関節周囲筋(中殿筋・大殿筋など)の強化
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疲労時の休息、アイシング、コンディショニングの徹底
もしFAIが疑われたら?
股関節の痛みが長引き、「靴下が履きづらい」「階段が辛い」などの症状が出た場合は、是非当院の診察を受けてみましょう。
X線やMRIで形の異常を確認することができ、リハビリや保存療法、場合によっては手術で症状の改善が図られます。
まとめ
FAIは、成長期のアスリートにとって無視できない股関節の問題です。特にスポーツの種類やトレーニングの頻度が形態変化と関係することが、複数の研究で分かっています。
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Cam型FAIは成長期のスポーツ習慣と深く関係
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アイスホッケー・バスケ・サッカーに多い
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発育期の過負荷は骨の形に影響を及ぼす
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適切な運動管理と早期の対応が重要
成長期の大切な体づくりの時期だからこそ、未来のパフォーマンスと健康のために、股関節にも目を向けてみてください。
当院医師の齋藤先生監修のFAIの概要と股関節鏡手術についての記事も是非ご覧ください。
参考文献
