前十字靱帯損傷とは
event_note2025.04.09
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目次
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ACL損傷は男性より女性に多い |
ACL損傷は主に非接触型損傷と接触型損傷に分類されます |
ACL損傷の診断にはMRIが有用となります |
前十字靱帯損傷とは?
前十字靭帯(ACL)は膝関節の安定性を維持する重要な靭帯であり、スポーツ活動中の損傷が多く報告されています。本記事では、ACLの解剖学的特徴、損傷の危険因子、診断、治療、およびリハビリテーションについて詳しく解説します。
ACLの解剖学的特徴
ACLは大腿骨外側顆の内側面から起始し、脛骨高原の前顆間区に付着する靭帯で、長さ約35mm、最大横径は約11mmです。
ACLは関節内で前内側線維(anteromedial band)と後外側線維(posterolateral band)に分かれ、これらの線維が膝関節の様々な動きに適応しています。
特に膝伸展時には大腿四頭筋の収縮によって緊張が高まります。
ACL損傷の危険因子
ACL損傷には以下の危険因子が関与しています。
性別:女性は男性よりもACL損傷のリスクが高いとされています。
解剖学的因子:脛骨後方傾斜が大きい(10~13°)場合や、顆間窩幅が小さいとACL損傷のリスクが上昇します。
神経筋因子:体幹の側方移動、膝外反モーメントの増大、男性の非接触型ACL損傷患者では股関節内旋可動域が有意に低下していることがリスクとなります。
遺伝的因子:ACL損傷の家族歴がある場合、リスクが高まることが報告されています。
全身弛緩性とBMI:全身弛緩性が高い、またはBMIが高いことも独立した危険因子とされています。
ACL損傷のメカニズム
ACL損傷は主に非接触型損傷と接触型損傷に分類されます。
非接触型ACL損傷は、ジャンプの着地や急停止時に膝外反と脛骨内旋が生じることで発生しやすいとされています。また、股関節内旋位、踵接地、体幹の側屈も受傷に関与すると考えられています。
ACL損傷の診断
ACL損傷の診断には以下の方法が有効です。
徒手検査
Lachman test:感度・特異度が高く、ACL損傷のスクリーニングに有用。
Pivot shift test:特異度が高く、ACL損傷の確定診断に有用。
画像診断
X線検査:骨折の有無を確認するが、靭帯の評価には適さない。
MRI検査:軟部組織の描出に優れ、感度87%、特異度91%と高精度。
ACL損傷の治療
ACL損傷の治療法には保存療法と手術療法があります。
保存療法
低活動者や高齢者では、保存療法が選択されることが多い。
しかし、不安定性が残存し、半月板や軟骨損傷を併発するリスクがある。
手術療法(ACL再建術)
若年で活動性が高い患者にはACL再建術が推奨される。
一般的に骨付き膝蓋腱法(BTB)や膝屈筋腱法(STG)が移植腱として用いられる。
ACL再建を受傷後3〜6ヵ月以内に行うことで、半月板や軟骨損傷のリスクを軽減できる。
リハビリテーション
術前リハビリテーション:
膝周囲筋力を維持・向上させることで、術後の転帰が良好になります。術前の大腿四頭筋筋力、ハムストリング筋力はいずれも筋力トレーニング(筋力強化運動)を含む6週間の術前理学療法介入により高い値となり、術後大腿四頭筋筋力は筋力トレーニングを含む術前4週間の理学療法介入により左右差が小さくなる。
可動域に関しては術前に膝関節の完全伸展を確保することが重要となってきます。
術後リハビリテーション:
大腿四頭筋トレーニング早期から非荷重化トレーニングにより、特にSTG法では緩みに繋がることがあるため注意が必要となります。
非荷重化でのトレーニングは術後4週目から45°〜90°の範囲でトレーニングを実施していきます。
荷重化トレーニングは痛みが少なく、弛緩のリスクが低い。非荷重化でのトレーニングと荷重化でのトレーニングを組み合わせることが効果的になります。
神経筋トレーニングは、ACL損傷後は膝関節位置覚が低下するため、筋力トレーニングに加えて神経筋トレーニングを実施が推奨される。
ACL再建後の再断裂リスク
ACL再建後5年間における再断裂率は2~10%と報告されています。
再断裂のリスク因子として、
・若年であること
・ACL損傷の家族歴
・早期の競技復帰
・術前のBMI30以上
・大腿四頭筋の筋力低下
・関節可動域制限
が挙げられます。
まとめ
前十字靭帯損傷はスポーツ活動を行う人々にとって重大な問題です。適切な診断と治療、そしてリハビリテーションを行うことで、膝の機能を維持し、再発リスクを低減することができます。特に、ACL再建術は若年者だけでなく、中高年者においても良好な成績が得られており、個々の活動性や希望に応じた治療計画が重要です。
参考文献
・van Melick N, van Cingel RE, Brooijmans F, Neeter C, van Tienen T, Hullegie W, Nijhuis-van der Sanden MW. Evidence-based clinical practice update: practice guidelines for anterior cruciate ligament rehabilitation based on a systematic review and multidisciplinary consensus. Br J Sports Med. 2016 Dec;50(24):1506-1515.
・前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)
・理学療法ガイドライン 第2版 第13章 前十字靱帯損傷理学療法ガイドライン
