変形性股関節症とは
変形性股関節症の概要
変形性股関節症は、股関節の関節軟骨が変性し、摩耗や破壊が進行する病気です。これにより関節痛、可動域制限、歩行障害などが現れ、日常生活に支障をきたすことがあります。変形が進行した場合、保存的治療では効果が限られるため、手術治療(骨切り術や人工股関節置換術など)が必要となる場合があります。
正常な股関節の構造
股関節は、大腿骨頭が骨盤の臼蓋に収まってボールとソケットのような構造を作り、体重を支えます。関節面は関節軟骨で覆われており、衝撃を吸収してスムーズな動きが可能です。関節包や筋肉によって補強され、股関節の曲げ伸ばしを支えています。
変形性股関節症の原因と分類
変形性股関節症は、一次性と二次性に分類されます。一次性は加齢や関節の使い過ぎが原因であり、二次性は先天性股関節脱臼や股関節の異常、外傷、関節リウマチなどが原因です。
主な原因
- 寛骨臼形成不全: 股関節の屋根部分(寛骨臼)の発育不全により、股関節が不安定になります。
- 先天性股関節脱臼: 大腿骨が脱臼している状態で、股関節に負担がかかります。
- 大腿骨頭壊死症: ステロイド注射やアルコール多飲が原因で大腿骨頭が壊死します。
- 関節リウマチ: 炎症により股関節の軟骨が消失し、変形が進行します。
変形性股関節症の病期
変形性股関節症は、レントゲンで関節の隙間が狭くなり、骨の変形が進行することで病期が進みます。病期は次の4段階で分類されます。
- 前期股関節症: 軽度の異常が見られるが、関節軟骨はまだ保たれています。
- 初期股関節症: 軟骨の摩耗が始まり、関節の隙間が狭くなり始めます。
- 進行期股関節症: 広範囲な軟骨の摩耗が進行し、骨に嚢胞や骨棘が現れます。
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末期股関節症: 関節軟骨が完全に消失し、関節の隙間がなくなり、激しい痛みや可動域制限が現れます。
変形性股関節症の進行と症状
変形性股関節症は、関節軟骨が摩耗し、骨同士の摩擦が増大することで進行します。最初は股関節の痛みが現れ、進行すると可動域の制限や歩行障害が生じます。症状には、以下のようなものがあります。
- 痛み(疼痛): 歩行開始時や階段昇降時に痛みが現れ、進行すると安静時にも痛みが生じます。
- 関節の可動域制限: 変形が進行すると、股関節の可動域が制限され、日常生活に支障をきたします。
- 筋力低下: 股関節を動かすことが少なくなり、周囲の筋力が低下します。
- 歩行障害: 股関節の変形が進行すると、跛行(脚を引きずる歩き方)や歩行障害が現れます。
診断と治療
診断
変形性股関節症は、症状とレントゲンでの変形を元に診断されます。進行が確認されると、CTやMRIを用いてより詳細に調べることがあります。
保存治療
薬物療法、注射、リハビリテーションなどが行われ、早期の症状改善や進行防止が目指されます。
薬物療法
鎮痛薬や抗炎症薬を使用して痛みを軽減します。
注射療法
ヒアルロン酸やステロイドを関節内に注射し、痛みを軽減します。
リハビリ
変形性股関節症におけるリハビリテーションは、症状の軽減や進行の予防、また手術後の回復を支えるために非常に重要な役割を果たします。
リハビリには以下のようなアプローチがあります。
問診
問診により,初動作時痛・運動時痛・夜間痛などの安静時痛の有無,変形性股関節症に特徴的な入浴,更衣,爪切り,排泄などの ADL 制限,そして股関節痛の性状と部位を正確に把握してリハビリテーションを行います。1)
筋力訓練
股関節周囲の筋力強化を目的とした筋力訓練は、股関節にかかる負担を軽減し、疼痛の改善を助けます。特に重要なのは、股関節を支える大殿筋(お尻の筋肉)と中殿筋(股関節を外転する筋肉)の強化です。これらの筋肉を強化することで、股関節にかかる負担を減らし、歩行や日常生活動作をより楽にすることができます。
- 大殿筋:歩行や階段昇降時にお尻の筋肉がサポートし、股関節の安定性を保ちます。
- 中殿筋:股関節を外転(開く)させる筋肉で、歩行時に骨盤を安定させる重要な役割を果たします。
股関節外転筋の機能をみる Trendelenburg 徴候や Duchenne 現象は,変形性股関節症にはよく用いる評価となります。1)
可動域訓練
股関節が硬くなり可動域(ROM)が制限されると、正座や靴下を履く、しゃがむといった日常動作が困難になります。可動域訓練では、股関節を柔軟に保つためのストレッチや、関節を滑らかに動かすためのエクササイズが行われます。これにより、関節の動きが改善され、可動域の減少を防ぐことができます。
一般に病期が進行すると,股関節屈曲・外旋・内転拘縮を生じやすく,腰椎や膝関節など隣接関節の代償性動作が出現しやすくなります. 1)
生活指導
リハビリの一環として、生活習慣の見直しや股関節への負担を減らす指導も行われます。体重管理や正しい姿勢の維持、杖などの補助具の使用が推奨されることがあります。また、股関節に負担がかかりにくい生活スタイルの提案がされることもあります。例えば、階段の昇降時には手すりを使う、歩行の際はペースを調整するなどです。
手術治療
手術は、保存的治療(薬物療法やリハビリ)が効果を示さない場合や、症状が重度で日常生活に支障をきたしている場合に検討されます。主に行われる手術は人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)です。
人工股関節置換術(THA)
人工股関節置換術は、股関節の痛みや機能障害が進行し、保存的治療が効果を示さなくなった場合に行う手術です。股関節の骨や軟骨がすり減り、変形が進んだ状態で行われます。この手術は、痛みを完全に取り除き、股関節の可動域を改善し、患者の生活の質を大幅に向上させることができます。
手術の流れ:
手術内容
手術では、損傷した股関節の部分(大腿骨頭および股関節臼蓋)を取り除き、それを人工関節に置き換えます。人工股関節は金属やセラミック、ポリエチレンなどで作られ、患者の体に合わせて適切なサイズを選択します。
手術後の回復
手術後は、歩行や関節の可動域を回復させるためにリハビリテーションが重要です。術後数日からは歩行器や杖を使用しながら歩行練習を行い、筋力や柔軟性の回復を目指します。術後1~2週間で退院できることが多いですが、術後3~6か月はリハビリが必要です。
術後のリハビリ
術後のリハビリは、手術の成果を最大化し、機能回復を促進するために欠かせません。リハビリは段階的に行われ、以下の内容が含まれます。
初期リハビリ(術後1~2週間)
術後早期からのリハビリテーション治療により,早期離床を促すことは D-ダイマーなどの凝固系因子亢進による深部静脈血栓(deep vein thrombosis:DVT)や肺塞栓(pulmonary embolism:PE)の予防に効果的です。
痛みや腫れを管理し、股関節の安定性を保ちながら、軽い歩行練習や筋力トレーニングを開始します。
目標は、人工股関節の可動域を取り戻すことと、歩行能力を回復させることです。
中期リハビリ(術後2~6週間)
筋力強化を本格化し、歩行や日常生活動作の改善を目指します。
特に股関節周りの筋肉(大殿筋、中殿筋、大腿四頭筋)の強化が重要です。
長期リハビリ(術後3ヶ月~5ヶ月)
完全に日常生活に戻ることを目標に、筋力と柔軟性の維持・向上を目指したリハビリを行います。
特に歩行や階段昇降、運動能力の回復に重点を置きます。
術後の注意点
術後は経年的な変化を確認するため、定期的な診察を受けることが推奨されています。
予防と生活指導
- 体重管理: 体重の増加は股関節に負担をかけるため、適切な体重を維持することが重要です。
- 補助具の使用: 歩行を助けるための杖などを使用することが推奨されます。
- 生活様式の変更: 股関節に優しい動作や姿勢を心がけ、負担を減らすことが大切です。
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参考文献
- 1)高窪祐弥ら.変形性股関節症のリハビリテーションに必須の評価法と活用法 Jpn J Rehabil Med 2017;54:849-853