股関節唇損傷とは
今回のkey point
股関節唇損傷の原因にはFAIや寛骨臼蓋形成不全の骨形態異常が関与します |
股関節唇損傷では股関節を内側に捻じる角度の減少がみられます |
股関節唇損傷では股関節の不安定性の症状がみられます |
股関節唇損傷の原因と臨床症状
はじめに
股関節唇は、股関節の安定性を高め、衝撃を吸収し、関節内圧の維持に寄与する重要な構造であります。
この関節唇が損傷すると、股関節痛や運動制限などの症状が生じ、日常生活やスポーツ活動に支障をきたすことがあります。本記事では、股関節唇損傷の原因と臨床症状についてお伝えします。
股関節唇損傷の原因
1. 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)
股関節唇損傷の主たる原因の一つとして、大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement: FAI)が挙げられます。FAIは、大腿骨頭頸部と寛骨臼縁との間に繰り返し衝突が生じる病態であり、主に以下の二種類に分類される。
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CAM型:大腿骨頭頸部移行部に骨隆起(CAM変形)が存在し、股関節を曲げて・内側に捻じる時に寛骨臼縁と衝突を生じやすくなります。
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Pincer型:寛骨臼の過被覆により、大腿骨頭が早期に寛骨臼縁に接触し、関節唇を圧迫します。
文献によれば、FAIの存在は関節唇損傷の強い危険因子であり、FAI患者の多くが関節唇損傷を伴います。
2. 関節の反復ストレスと微小外傷
FAI以外にも、股関節への繰り返しの負荷や微小外傷が関節唇損傷の原因となります。特にサッカー、バスケットボール、バレエなどの高頻度で股関節を曲げて・内側に捩じり・外側に開く動作を伴うスポーツは、関節唇に慢性的なストレスを与えやすい。
反復する剪断力や圧迫力が蓄積されることで、関節唇の構造が破綻し、損傷に至ると考えられます。これらのスポーツ活動を行う若年者においては、解剖学的異常が明確でなくとも関節唇損傷が生じることが報告されています。
3. 寛骨臼の骨形態異常(寛骨臼形成不全)
寛骨臼形成不全も、関節唇損傷のリスク因子であります。これは、寛骨臼が大腿骨頭を十分に覆っていない状態であり、股関節への荷重が関節唇に集中することで、損傷を引き起こしやすくなります。結果として、関節唇が代償的に支持性を担うようになり、過度な力がかかることによって断裂を生じます。
4. 加齢変化
加齢に伴う変性変化も関節唇損傷の原因となります。40歳以上の年齢では、関節唇の変性断裂が自然経過として出現することがあり、これは退行性変化による構造的脆弱性が関係すると考えられます。ただし、FAIや外傷などとの鑑別が必要であります。
臨床症状
股関節唇損傷の臨床症状は多様であり、診断を困難にすることがあります。以下に主な症状を示します。
1. 鼠径部痛
最も一般的な症状は鼠径部の疼痛であり、運動時や長時間の座位、立位保持で増悪することが多いです。痛みは鈍痛として感じられるが、時に鋭い痛みとして認識されることもあります。また、痛みが大腿前面、臀部、あるいは膝にまで放散することもあります。
2. 引っかかり感(clicking, locking)
関節唇の損傷により、股関節の動作時に引っかかり感やクリック音(snapping)が生じることがあります。これらの症状は、関節唇断裂の不安定部分が関節内で移動することによって生じます。
3. 関節可動域の制限
股関節を曲げて・内側にねじる動作で疼痛が誘発され、可動域制限が認められることがあります。特にFAIを合併している場合には、内側に捻じる角度の減少が顕著であります。
4. 感覚的な不安定性
患者は股関節の不安定感を訴えることがありますが、これは構造的な不安定性というよりも、関節唇の支持機能低下に起因する感覚的なものであると考えられています。
まとめ
股関節唇損傷は、FAIや寛骨臼形成不全、スポーツ活動によるストレス、加齢変化など、さまざまな要因が関与して発症します。臨床症状としては鼠径部痛や引っかかり感、可動域制限などが認められるが、診断には画像所見や徒手検査と併せて総合的な評価が必要であります。近年では早期診断・治療の重要性が強調されており、股関節痛を訴える若年者やアスリートでは、関節唇損傷の存在を念頭に置いた評価が求められます。
当院医師の齋藤先生監修の股関節唇損傷の概要と股関節鏡手術ついての記事も是非ご覧ください。
参考文献
・Su T, Chen GX, Yang L. Diagnosis and treatment of labral tear. Chin Med J (Engl). 2019 Jan 20;132(2):211-219.
・Groh MM, Herrera J. A comprehensive review of hip labral tears. Curr Rev Musculoskelet Med. 2009 Jun;2(2):105-17.