FAI(Femoroacetabular Impingement)とは
event_note2025.04.16
目次
Toggle今回のkey point
FAIはカム変形・ピンサー変形・混合型に分類される |
FAIの発生原因としてスポーツ活動が関与する |
症候性FAI患者では、股関節前方や鼠径部の痛み、可動域の制限、運動時のクリック感や引っかかり感などが訴えられる |
FAIとは?
若年者の股関節痛の原因と病態を理解する大腿寛骨臼インピンジメント(Femoroacetabular Impingement:FAI)は、近年注目されている若年層における股関節痛の主な原因の一つです。関節の変形が進行すると、将来的に変形性股関節症(OA)を引き起こす可能性があることも報告されており、早期の評価と対応が求められています。本記事では、FAIの病態、リスク因子、遺伝的・環境的背景、そして体幹や骨盤のバイオメカニクスがどのように影響しているのかを、わかりやすく解説します。
FAIとは何か?
FAIは、大腿骨近位部(太ももの骨の付け根)と寛骨臼(骨盤のくぼみ)との間に生じる異常な接触(インピンジメント)によって、関節唇や軟骨が損傷し、痛みや可動域制限を引き起こす疾患です。FAIには主に3つのタイプがあります。
- カム型(Cam lesion):大腿骨頭の形が球形でなくなり、骨頭頸部の前外側が突出することで、股関節の屈曲・内旋時に寛骨臼縁とぶつかります。
- ピンサー型(Pincer lesion):寛骨臼の覆いが過剰になり、大腿骨頭との接触が早期に起こることで、関節唇を圧迫します。
- 混合型(Mixed):カム型とピンサー型の両方の特徴を併せ持つタイプで、最も多く見られます。
なぜFAIが起こるのか?
発生の背景FAIの原因は、遺伝的な素因と環境要因(特にスポーツ活動)が複雑に関係しています。
カム型変形とスポーツ参加の関連カム変形は、特に思春期後期(骨端線閉鎖期)におけるスポーツ活動と密接な関連があると報告されています。
この時期にジャンプやキック、切り返しなどの高負荷が繰り返されることで、大腿骨頭の成長過程に異常が生じ、骨軟骨が前外側方向に過剰成長することがあるのです。
実際、スポーツ経験のある若年者ではカム変形の有病率が高く、成長板が閉じた後にα角(alpha angle)が増加する傾向が観察されています。
症状と日常生活への影響
FAIを有する人すべてが痛みを感じるわけではありませんが、症候性FAI患者では、股関節前方や鼠径部の痛み、可動域の制限、運動時のクリック感や引っかかり感などが訴えられます。特に、座る・しゃがむ・階段を昇る・走るなどの動作で症状が悪化することが多く、日常生活やスポーツ活動に制限をきたすケースも珍しくありません。
有病率と男女差
カム変形の有病率は5〜75%と幅広く報告されており、定義や評価方法によって大きな差があります。
- 男性ではアルファ角が高い(=カム変形)傾向があり、有病率は約25%
- 女性では外側中心縁角(lateral center-edge angle)が高い(=ピンサー変形)傾向があり、有病率は約10%と報告されています。
ピンサー変形については、男性7%、女性10%の頻度とされており、いずれも無症候性であっても変形自体は比較的多く存在していることがわかります。
遺伝的要因と家族歴の関与
症候性FAI患者の兄弟姉妹は、配偶者と比較してカム変形(α角 > 62.5°)を有するリスクが2.8倍高いと報告されており、ピンサー変形でも同様の傾向が確認されています。
これは、FAIが遺伝的背景を持つ可能性を強く示唆する結果です。しかし一方で、家族間で共有される環境要因(スポーツ参加など)も大きな影響を与えている可能性があり、単一の原因に帰することは難しいのが現状です。
これは、FAIが遺伝的背景を持つ可能性を強く示唆する結果です。しかし一方で、家族間で共有される環境要因(スポーツ参加など)も大きな影響を与えている可能性があり、単一の原因に帰することは難しいのが現状です。
捻転角(バージョン)の影響
近年では、大腿骨および寛骨臼の捻転角(version)がFAIに及ぼす影響にも注目が集まっています。
- ピンサー型FAIの患者では、大腿骨前捻角(femoral anteversion)が高い傾向にあるとされ、
- 一方、カム型FAIでは、前捻角が小さい=捻転が少ないことが多く報告されています。
これらの捻転角は、股関節の内旋可動域や屈曲角度に直接影響を与えるため、臨床評価や治療戦略を考える上で非常に重要な因子です。
体幹・骨盤バイオメカニクスの影響
FAIは静的な骨の変形だけでなく、動作中の骨盤や腰椎の動き(=動的インピンジメント)にも深く関わっています。
例えば、FAI患者では
- 脊椎の前屈角が小さく(22° ± 12° vs. 35° ± 8°)
- 股関節の屈曲角は大きい(72° ± 6° vs. 62° ± 8°)
といったバイオメカニクスの違いが報告されています。
つまり、腰椎の可動性が制限されると、代償的に股関節屈曲や骨盤の傾斜が過剰になり、FAIの悪化や症状の進行に繋がる可能性があるのです。
さらに、FAI患者では骨盤傾斜角(pelvic incidence)が低い傾向にあり、これは最大骨盤後傾を制限し、股関節屈曲時の骨の衝突リスクを高める因子と考えられています。
まとめ
FAIの理解は早期発見と治療に繋がるFAIは、若年層の股関節痛の重要な原因であり、その進行を防ぐには、早期発見と個別の病態理解が鍵となります。
特にスポーツをしている青少年では、無症状のうちから定期的なモニタリングや動作評価を行うことが有効です。骨の形態だけでなく、体幹・骨盤のバイオメカニクスや捻転角、遺伝的要素など多角的な視点からFAIをとらえることが、より的確な評価と予防・治療に繋がります。
特にスポーツをしている青少年では、無症状のうちから定期的なモニタリングや動作評価を行うことが有効です。骨の形態だけでなく、体幹・骨盤のバイオメカニクスや捻転角、遺伝的要素など多角的な視点からFAIをとらえることが、より的確な評価と予防・治療に繋がります。
参考文献
・Grantham WJ, Philippon MJ. Etiology and Pathomechanics of Femoroacetabular Impingement. Curr Rev Musculoskelet Med. 2019 Jul 5;12(3):253-259.
・Packer JD, Safran MR. The etiology of primary femoroacetabular impingement: genetics or acquired deformity? J Hip Preserv Surg. 2015 Jun 18;2(3):249-57.
・Packer JD, Safran MR. The etiology of primary femoroacetabular impingement: genetics or acquired deformity? J Hip Preserv Surg. 2015 Jun 18;2(3):249-57.
