“FAI (Femoroacetabular impingement)”とは?
FAIとは、FemoroAcetabular Impingement の略語で、femoro=大腿骨 acetabular=寛骨臼 impingement=衝突という意味で、日本語では大腿骨寛骨臼インピンジメント(股関節インピンジメント)と呼んでいます。股関節を動かしたときの股関節の大腿骨(太ももの骨)側と寛骨臼側(受け皿の骨)の骨と骨のぶつかりを意味します。
FAIによって股関節痛や股関節唇損傷、軟骨損傷が起こることがわかってきました。

図のような太ももの骨のでっぱり(Cam(カム)変形)は、遺伝が原因であったり、成長期に活発なスポーツを行っていたことが原因であったりと言われています。
FAIは変形性股関節の原因の1つである
また、Cam変形があることで、股関節唇損傷が生じ、最終的には変形性股関節症(軟骨のすり減り)まで至る、以下のようなメカニズムがわかってきました。2,3
- 股関節を曲げたり、ひねったりする際に、このでっぱった骨(Cam変形)と受け皿の骨が何度もぶつかり合う
- 受け皿の骨と太ももの骨の間に存在する股関節唇が傷つく(股関節唇損傷)
- 股関節唇損傷が生じたために、痛みや不安定性(ぐらつき)が生じる
- Cam変形が関節唇のみならず、受け皿の軟骨までも削り、その軟骨がはがれてしまう
- 軟骨が傷んで変形性股関節症(軟骨のすり減り)に至る

さらに、このCam変形(太ももの骨の出っ張り)が大きい人は、Cam変形が全くない人と比較すると、変形性股関節症(軟骨のすり減り)になる可能性が約10倍高いと言われています。3*
FAIの検査・診断
以下の手順が一般的です。
Step.1問診と身体診察
まず、医師が患者さんの症状や生活状況について詳しく尋ねます。 具体的には、股関節の痛みの有無、動きにくさ、つまり感、あぐらがかけない、足が組めないなど、日常生活や運動への影響などを確認します。 その後、股関節の動きを実際に調べ、痛みや可動域の制限を評価します。
Step.2画像検査
FAIや関節唇損傷が疑われる場合、以下の画像検査が行われます。
単純X線検査(レントゲン)
F通常の股関節のレントゲン撮影に加えて、「ダンビュー(Dunn View)」と呼ばれる特別な方法で撮影します。 これは、FAIの診断に特化した角度で撮影したレントゲン画像で、骨の異常をより詳細に確認できます。また、単純X線検査では変形性股関節症(関節の変形)の有無も同時に診断できます。
MRI検査
MRIは、骨だけでなく、軟骨、筋肉、腱などの軟部組織を詳細に映し出すことができます。 これにより、股関節内の問題や病気の進行度を正確に把握し、適切な治療法を選択するための重要な情報を得られます。 特に、関節唇の損傷を正確に診断するためには、関節唇を詳しく映し出す特別な方法でMRI撮影を行う必要があります。
Step.3診断の重要性
これらの検査を通じて、FAIの有無やその程度、さらに関節唇の損傷状況を正確に把握することができます。 早期に正確な診断を行うことで、適切な治療計画を立て、症状の進行を防ぐことが可能となります。
FAIは、放置すると股関節の変形やさらなる痛みを引き起こす可能性があります。 そのため、股関節に違和感や痛みを感じたら、早めに医療機関での診察を受けることが大切です。重要なことは、このCam変形(太ももの骨の出っ張り)は軽度な異常ですので、通常の病院でのレントゲン検査では見逃す可能性があることです。
股関節が痛くて病院に行き、「異常なし」と言われた患者さんの中には、当院ではじめてDunn view (ダンビュー)といわれる特殊な撮影方法でのレントゲン検査を行い、FAIと診断がつくことがあります。4*
別の病院でうまく診断されていない原因の1つに、FAIは2003年から提唱された比較的新しい概念であり2*、一般の整形外科医がそこまでFAIに詳しく知らないという点が考えられます。Dunn view (ダンビュー)といわれる方法4*で詳しくレントゲン検査を行ったり、詳しくMRI検査を行ったりすれば、診断がつくことがほとんどです。
お近くの整形外科で「異常なし」と言われたとしても、股関節痛が続く場合は、是非股関節専門外来を受診し、精密検査をされることを強くお勧めします。
FAIへの治療方法
股関節唇損傷と同様に、まず保存療法(手術以外の方法)を実践します。
保存療法(手術以外の方法)
保存療法とは、手術を行わずに症状の改善を目指す治療法のことです。FAIの保存療法には以下の方法があります。
①日常生活の工夫
股関節に負担をかける動作、例えば深くしゃがむ、あぐらをかく、長時間座るなどを避けることが推奨されます。これにより、関節へのストレスを減らし、痛みの軽減を図ります。
②リハビリテーション(運動療法)
股関節や体幹の筋力を強化し、柔軟性を向上させることで、関節の安定性を高め、負担を軽減します。具体的には、Hip3(ヒップスリー)と呼ばれるトレーニング、体幹トレーニング、ストレッチ、筋力トレーニングなどが含まれます。
③薬物療法
痛みや炎症が強い場合、鎮痛剤や抗炎症薬の使用が検討されます。また、必要に応じてステロイド注射が行われることもあります。
保存療法の効果と限界
保存療法は、多くの場合、症状の改善に有効とされ、約80%の方は保存療法で痛みが改善すると報告されています。しかし、FAIのCam変形(太ももの骨のでっぱり)自体が自然に治ることは無いので、症状が長引く場合や改善が見られない場合は、手術療法が検討されることがあります。
手術療法の選択肢
保存療法でよくならない場合は、専門医と相談の上、一歩進んだ治療として手術(股関節鏡手術)を考えます。当院では、国内では数少ない股関節鏡手術の専門医であります、日本股関節学会の股関節鏡技術認定取得医が手術を担当します。
股関節鏡手術(股関節鏡視下手術)では、股関節の外側に小さい穴を2~3カ所作り、内視鏡を入れ、損傷した股関節唇を修復し、かつ同時にCam変形(太ももの骨)をけずる手術を行います。患者さんへの負担が少なく、回復も比較的早いとされています。
*参考文献
1. Pettit M, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2021. How does the cam morphology develop in athletes? A systematic review and meta-analysis.
2. Ganz R, et al. Clin Orthop Relat Res 2003. Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip.
3. Agricola R, et al. Nat Rev Rheumatol 2013. Cam impingement of the hip: a risk factor for hip osteoarthritis.
4. Saito M, et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2017. Correlation of alpha angle between various radiographic projections and radial magnetic resonance imaging for cam deformity in femoral head-neck junction.